キャンプ場経営コラム アフターコロナのインバウンドを考える④

キャンプ場経営コラム アフターコロナのインバウンドを考える④

-今シーズンにおける外国人キャンパーの利用(まとめにかえて)-

これまで3回に分けて北海道内のキャンプ場における外国人キャンパーの利用についてご報告してきました。第4回目(最終回)では過去3回で触れた外国人キャンパーの利用動向の特徴をまとめ、今シーズンの外国人キャンバー利用について私見を述べたいと思います。

■新型コロナ感染拡大以前のインバウンド

上富良野町日の出キャンプ場では2012年頃から外国人の利用が始まり、2012年212人だったものが、2018年には3,705人に達し、7年間で17.5倍に急増しました。その間、北海道内の都市部や観光地域に立地するキャンプ場を中心に外国人キャンパーの利用も増え、2019年には報告のあった20箇所のキャンプ場合計で10,800人の外国人キャンパーが利用するまでになりました。

利用者の出発国・地域を見ると、台湾人が全体の約75%、続いて香港が約10%程度を占め、この2地域で全体の85%を占めています。しかし一般の訪日外国人旅行者数の多い、中国や韓国からの利用者はほとんどありませんが、潜在的需要はあると考えますので、今後利用が増えていくのではないでしょうか。

■なぜ上富良野町で外国人キャンパー(特に台湾人)が急増したのでしょうか。

台湾人観光客に人気の四季彩の丘(美瑛町)

それではなぜ同キャンプ場で外国人キャンパー(特に台湾人)の利用者が急増したのでしょう。第一に台湾人にとって北海道は従来から人気の観光地域として位置づけられていることです。2019年の訪日外国人旅客数では、来道台湾人の構成比は全国平均と比べ5ポイント高くなっています。旅行目的では自然、温泉、食がベスト3ですが、中でも美瑛富良野地域に代表される、いわゆる「花観光」に対する観光需要が高いようです。そのため同地域の中央部に位置する同キャンプ場の拠点性が注目されたことにあると考えられます。第二に訪日・来道経験の増加によりレンタカーを利用した周遊型の旅行形態が増えたことから、宿泊施設あるいはアウトドア体験としてのキャンプが注目されだしたこと。そして第三に同キャンプ場利用者のブログやSNSによる情報発信により同キャンプ場の認知度が急速に向上していったことなどが推測されます。

■7月の利用が多く、キャンプ場経営の平準化に寄与しています

上富良野日の出公園オートキャンプ場における2019年1シーズン中の利用者数をみると、シーズン利用者総数3,341人のうち1,565人と約半数が7月に集中しています。これは台湾を含む大半の国・地域では9月入学のところが多く、夏休みも7月から始まり、同月の利用需要が高まっているものと考えられます。また旅行期間が長期化しますから、平日利用も増えていき、利用の平準化につながっています。

■外国人キャンパーの観光行動

アンケート風景

 外国人キャンパーの観光行動の特徴を整理すると以下の通りとなります。

  • 利用者の約65%は訪日リピーターで、訪日旅行のベテランと言えます。
  • 旅行の主な目的は「自然鑑賞」と「キャンプ」で、大半はキャンプを目的としています。
  • 旅行日数は7泊以上が約9割弱。10泊以上が約5割となっており、通常のパッケージツアーの2倍以上の旅行期間です。
  • 利用者の約8割は英語でのコミュニケーションが可能ですが、日本語ができるものは約1割程度です。

■外国人キャンパーのキャンプスタイル

キャンプスタイルの特徴を整理すると以下の通りとなります。

  • 利用層は30~40歳代の家族連れが多く、日本と同様のファミリーキャンプが主体です。
  • 滞在中1キャンプ場の宿泊数は少なく、複数のキャンプ場を利用していることから広域周遊型利用傾向が強くなっています。
  • 使用するキャンプ用品はテントと寝袋が主ですが、68.8%の方は持参しています。その理由等しては「自分の道具を使いたかったから」が全体の70.0%を占めており、道具に対する思いが現れた結果となっています。
  • キャンプ場の予約をした方は全体の61.9%で、方法としては「電話(36.7%)」がもっと多く、「日本語が話せる友人に依頼」、「Eメール」が続いています。一方、予約をしなかった方も約40%おり、「予約は不要と思った(74.5%)」、「中国語での予約はできないと思った(14.9%)」となっています。
  • 主なキャンプ場情報は主にホームページやブログで、旅行中はスマートフォン、タブレット等を使い頻繁に情報を入手しています。そのためブログやSNS等による情報発信の重要性が増していると考えられます。

■外国人キャンパー受け入れの課題と今シーズンの利用について

今シーズンはアフターコロナの1年目ということになりますが、外国人キャンパーの訪日が期待されます。また新型コロナ感染拡大前は北海道における増加が顕著でしたが、こうした傾向は全国にも波及していくのではないでしょうか。

こうした外国人キャンパーの増加に対応したキャンプ場の取り組みも必要になります。特にコミュニケーション面での課題が最も大きいものと考えられます。例えば最も事務的作業の多いチェックイン時の対応を以下にスムーズにしていくかがポイントになりますが、利用申込書やキャンプ場の利用方法に関する簡単なパンフレットなどは少なくとも英語(できれば中国語も)のものを用意しておくとよいかと思います。

また予約は電話やEメールが大半を占めていますから、スタッフの方も英語や中国語の初歩的な会話ができるようになることが望ましいと思います。緊急事態や周辺の観光案内など、多少高度なコミュニケーション能力が必要な場合は、自動翻訳アプリなども活用できるのではないでしょうか。

これまでは台湾人キャンパーが大半を占めていましたが、中国や韓国でも近年キャンプ需要が高まりつつあり、特に距離も近い西日本における周遊型キャンプも活発になるのではないでしょうか。

■おわりに

今後外国人キャンパーの利用が増え、キャンプ場経営にとっても課題はありますが、プラスの効果もあります。しかしキャンプ場利用はこうした経済的な効果だけではなく、壁も天井もない宿泊施設としてのキャンプ場は、またとない草の根国際交流の場としても、通常の宿泊施設にはない特性を持っています。外国人旅行者のニーズのなかにも現地の人々との交流を求める声もあります。人と人とが直接触れ合える環境を提供できる交流施設としてのキャンプ場を活用し、国際的な関係人口を増やしていくことにより、キャンプ場だけではなく地域の活性化にも繋がるものと期待しています。


(執筆者紹介)
宮武清志(株式会社リージャスト札幌支店長)
miyatake@readjust.co.jp
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1953年北海道室蘭市生まれ
1988年から、“オートキャンプ場を核とした地域振興構想=オートリゾートネットワーク構想”推進のため、北海道において基幹施設となるオートキャンプ場整備および全道的なネットワークづくりに参画してきました。その間、NPO北海道オートキャンプ協会理事(~2019年)、札幌国際大学観光学部教員(~2021年)を兼務してきました。