川嶋辰彦先生の思い出

川嶋辰彦先生の思い出

JAC会長 明瀬一裕

11月4日、学習院大学名誉教授の川嶋辰彦先生が逝去されました。
先生は日本オートキャンプ協会の理事を1991年から1995年まで4年間務められました。

私が初めて川嶋先生とお会いしたのは、1993年11月に大森ベルポートで開催されたキャンプフォーラムの会場でした。当時バブル経済を背景に空前のアウトドアブームが起こり、オートキャンプはいわばそのけん引役を果たしていました。オートキャンプを始める人が急増し、各地でオートキャンプ場が建設されました。そのような状況下でキャンパーのマナーや環境問題がクローズアップされるようになりました。フォーラムはそうした問題に協会として積極的に取り組む必要があることから開催されたもので、その座長を務めたのが川嶋先生でした。
私は川嶋先生の座長ぶりを拝見して、オートキャンプに対する深い造詣と、丁重で穏やかな語り口、そして誰にも気配りする優しい人柄に強い感銘を覚えました。

翌1994年には島根県浜田市で第55回FICC世界オートキャンプ大会が開催されることになっており、川嶋先生の力添えもあって開会式に皇室から秋篠宮両殿下をお招きすることになりました。この画期的な大会をより意義のあるものとするために、協会は大会期間中に「キャンプと地球環境」をテーマとした国際フォーラムを開催することを決定し、そのコーディネーターを川嶋先生にお願いしました。川嶋先生の提案によりフォーラムにおいて「浜田宣言」を発表することになり、宣言の文案も先生自ら英文で作りました。

1994年石見海浜公園(島根県)で開催された国際フォーラム「キャンプと地球環境」で登壇する川嶋辰彦氏(左から2番目)


フォーラムは世界大会の会場となった石見海浜公園に設置されたビッグテントに内外のキャンパー約300人が集まって行われました。FICC会長の挨拶に始まり、フランス、ハンガリー、デンマークのパネリストが講演した後、ディスカッションに移り、最後に浜田宣言を採択しました。
世界中からキャンパーが集う世界大会の会場で、FICCとして環境問題に取り組む姿勢を示した意義は大きく、特にそれが日本の主唱によってなされたことは加盟各国に強いインパクトを与えました。
私は川嶋先生がフォーラムの基調講演の中で述べた次の言葉が忘れられません。
「ヘビに出会ったとき大人はいたずらに驚いて、子供に恐怖心を植え付けるべきではありません。『あの動物を見てごらん。なんて美しい目の形をしているんだろう。』そう言って子供の注意を促せば、子供は動物を愛し、自然をいっそう深く理解するようになるでしょう。」

同フォーラムで基調講演を行う川嶋辰彦氏


川嶋先生の誰にも分け隔てなく接する姿勢は、ひとえに人間と自然に対する深い愛に根差していたと思います。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。

一般社団法人日本オートキャンプ協会
会長  明瀬一裕