安全で楽しいキャンプの普及のために

玄倉川キャンプの事故に関連して

平成11年8月24日

社団法人日本オート・キャンプ協会
会長 長谷川 純三

 [目次]

はじめに

平成11年8月第2週の週末、神奈川県の玄倉川、山梨県の道志川、埼玉県の大滝村、その他においても、大雨による河川での多数の事故が報道された。そしてそれらのほとんどは、河川の増水によるキャンプ中の事故であった。そのうち玄倉川での事故は、その経緯から生々しい映像とともに報道され、死者を含む十数名の行方不明者との報道に大きな衝撃が走った。事故に遭われた方々には心より哀悼の意を表明するとともに、これらの悲惨な事故を二度と引き起こさないために、(社)日本オート・キャンプ協会では、今回の河川事故を主体として整理するとともに、一層の正しいキャンプ活動の普及と啓蒙を図るべく、今回の提言をする次第である。

[ 目次へ戻る ]

事態の整理

1. 特異な事故であったのか

河川の増水によるキャンプ中の事故は、決して初めてのことではなく、過去においても重大な事故が発生している。

(事例)昭和41年8月、宮崎市立中学校が県内町営キャンプ場で実施したキャンプ活動において、川の増水氾濫によってキャンプをしていた中州に生徒11名が孤立し、このうち生徒8名及び教員1名が激流に押し流されて溺死した。この事故はその後裁判となり、第1審宮崎地裁(昭和43年)、控訴審福岡高裁(昭和44年)において争われ、引率教員が業務上過失致死の罪に問われたが、本件事故は全く異例の突発的局地的集中豪雨という偶然的、不可抗力的事実に基因するものであるとして、無罪の判決が下った。
この事故を契機として河川の急激な増水や、中州での危険性が大きくクローズアップされ、中州にはテントを張らないことや、河原で活動をする場合には急激な増水の可能性について、予め対策を立てておくことが強くアピールされるようになった。
キャンプやハイキング中の河川での事故はその他にも様々なケースがあり、特に川遊び中の溺死事故が目立っている。また稀なケースではあるが平成10年の事故として多摩川河川敷でキャンプをしていた高校生2名が、折りからの雨によって緩んだ堤防の崩落により、生き埋めとなって死亡した事故もある。

過去に発生した事故事例を貴重な教訓とし、
同じ様な事態が起こりうるものとして事例を役立て、
対策を立てるようにしたい。

[ 目次へ戻る ]

2. キャンプの大敵は、過信と油断

 キャンプは、日頃の生活場面を離れ、非日常的な体験を主体とするところに楽しさと意義を見つけることができる。このことは、よくわからない場所で、慣れていないことを行おうとしているのであって、それだけ慎重に取り組み、周到な手だてを施す必要があるものと言える。
経験を慣れとせず、
また解っているからと油断せず、
いつも新鮮な気持ちと謙虚な心構えをもって
一回一回のキャンプに望むようにしたい。

[ 目次へ戻る ]

3. 自然は生きている

 科学の進歩が自然現象を解明し、自然をコントロールするまでの技術を持つようになった。しかしながらまだまだ未知の部分は多く、時として計り知れない程のエネルギーを発散させることがある。そのような時に我々人間の立ち向かう力は無力に等しく、ただ、自然の摂理に委ねなければならないことになる。
我々と共に生きている自然を敬い、
自然のパワーを侮ることなく
自然と共存するという心がけをもつようにしたい。

[ 目次へ戻る ]

4. 人との出会い、ふれあいを大切に

 キャンプは、多くの場合、家族や仲間と共に出かけ、そしてキャンプ場ではさらにたくさんの仲間達と出会うチャンスにあふれている。とかく孤立化、個別化しがちな現代社会において、多様な人々との交流の機会にあふれていることも、キャンプの魅力を高める大きな要素である。
このような時、せっかくの出会いを無視せずに、多くのふれあいを経験し、コミュニケーションを高める機会として様々な人の意見にも耳を貸す機会としたい。
また自分達の仲間の中においても、日頃とは異なった関係のもとに互いにリーダーシップを取り合い、新たな一面の発見に役立てることもできる。そんな仲間の中には、もっとベテランの人がいたり、地元ならではの情報に詳しい人が必ずいたりする。
キャンプで出会った人たちを大切にし、
知識や知恵を獲得する機会として役立て、
地元の方々や専門家の注意や指示は素直に受け入れたい。

[ 目次へ戻る ]

5. モラルの欠如が規則や制限を生む

 一般のスポーツは、細かく定められたルールに基づいて展開され、楽しまれる。それに対して、キャンプをはじめとするアウトドア・スポーツは、ルールのないところで、それぞれの創意と工夫によって楽しみを拡大するところに大きな魅力が存在する。しかし社会として放置できない状況が認められることによって、アウトドアにも次第にルールが設定されてくるようになる。
生きている自然、多様な変化を呈する自然や仲間から様々な情報を吸収し、それらを材料として判断し、 責任を持った行動として展開することがアウトドアを楽しもうとする人の基本となるモラルとテクニックである。
主体的な興味を発展させ、
自由にのびのびと楽しむためには、
日頃からの心構えが大切である。

[ 目次へ戻る ]

6. イメージ先行による普及促進方法の反省

雑誌をはじめ、アウトドア関連のパンフレットやカタログの多くは、美しい写真を添えてそのイメージをアピールしている。その中の多くの事例に、河原にテントを張ったり、こんな所までと驚くような場所に自動車を持ち込んでの写真が利用され、掲載されている。
正しい知識と判断力を持たない一般の人々が、これらリアリズムあふれるシチュエーションにあこがれ、私にもと思わせる影響力には恐ろしいものがある。ますます進むであろう情報化社会において、これらの情報からあこがれを抱き、イメージを形成して新しく参入する人々が増えることも容易に予測できる。
リーズナブルな判断ができる消費者を育てるためにも、
誇張や仮定に基づき、
理想イメージが先行した提示の在り方については
慎重な配慮が必要である。

[ 目次へ戻る ]

提 言

キャンプ愛好家の方々へ

  1. キャンプは、必ず許可された場所で行うようにしましょう。
    国土の全ての土地には、必ず所有者もしくは管理者が存在します。     キャンプはキャンプ場、また、キャンプ地の許可条件を  守って行うようにしましょう。
  2. キャンプを楽しむためには、それぞれのレベルに応じた専門的な知識と技術を   身につけましょう。
    正しい道具の使い方や、キャンプ場での楽しみ方など、キャンプ教室や講習会などの機会を利用して理解するようにしましょう。
  3. キャンパー同士のふれあいや、交流を促進しましょう。
    キャンプ場で一緒になった人達と、仲間意識をもって交流しましょう。困った時の力になってくれたり、とっておきの情報を教わったりすることができます。
  4. 自然を愛し、自然を敬いましょう。
    自然の美しい面だけを見るのではなく、自然の本当の姿を理解し、利用する自然に対して感謝の気持ちを持ちましょう。
  5. いざという時の備えを忘れずに。
    天候の急変、用具や道具の故障、病気や怪我など、起こりうる緊急事態に対する準備と心構えを持ちましょう。
(社)日本オート・キャンプ協会では、キャンプ場の指定、キャンプクラブの育成、キャンプ講習会の開催、キャンプ指導者の育成、キャンプ情報の提供、関連諸団体との交流、関連業界への助言、などの活動をとおして、我が国における「安全で楽しいキャンプの普及」に努めています。

[ 目次へ戻る ]