特集:キャンプ場の自然災害への備え

大水害から復旧した「長瀞オートキャンプ場」オーナー:伊藤文子氏インタビュー

「人と人とのつながりに感謝」

2019年10月12日上陸した台風19号により関東地方や甲信地方、東北地方は記録的な雨となり各地に甚大な被害をもたらしました。この時、埼玉県の荒川河畔にある「長瀞オートキャンプ場」では、サイトが水没し、施設が流されるなど深刻な被害を受けました。しかし、キャンプ場スタッフの他、キャンパーの人達の協力を得て、またクラウドファンディングなども活用し、この春に「リニューアル」オープンを果たしました。その復旧までの様子と一年近く経った今思うことをキャンプ場オーナーの伊藤文子さんにお話を伺いました。

Q:当日はどのような状況でしたか

10月12日 大型台風の予報が出ていたためキャンプ場はクローズしており、お客様はいませんでしたが、台風の成り行きを見守るため管理棟に待機しつつ場内を見回っていました。川の水嵩は次第に増し、午前10時には川辺のサイトの一部が水没し、そのエリアは広がっていきました。午後5時には、川から一番離れたバンガローや管理棟が水没しました。
私たちスタッフは、泊り込みで状況を見守るつもりでいましたが避難勧告発令のためキャンプ場を出ました。台風は夜中に直撃し、鳴り響く警報と風雨の轟音の中で、今キャンプ場はどうなってしまっているのかと、そればかり気にしながら一夜を過ごしました。

 私たちは翌朝、想像もできなかった光景を目の当たりにしました。本当にあのキャンプ場だったのかと自分達の目を疑いながら、集まったスタッフで場内を回り被害状況を確認しました。その時思っていたのは、ただ「元に戻そう」ということだけでした

Q:物理的・精神的に、すぐに復旧作業に取り掛かれましたか?

精神的な面においては 直後においては何の迷いもなく復旧に向け動き出しました。物理的には川からの土砂で道路が埋まり、車が通行できなかったため重機が入るのを待つしかありませんでした。それまでの数日間は、センターハウスの周りに流れてきた泥やゴミ、倒木、石などを片付けるなどしかできず、テントサイトなどには立ち入ることができませんでした。

Q:どのように復旧をさせていったのですか?

水道の配管、電気の配線などインフラも全てがなくなったので 新しいキャンプ場を作ったのと同じですが、川から流れて来たものが溢れていたので、それよりも困難でした。
作業としては、まず重機で車の通れる道と駐車場の確保。そのあとは、ひたすら流れてきたゴミ と倒木、巻き付いたツル、倒れてしまった木々の伐採をしました。エリアが広くスタッフだけの作業では気が遠くなるような状況だったので、この状況でボランティアさんを募集しました。

苦労したのは、この倒木やツルや流れて来た木々ゴミの処分でした。その後の整地作業は人力では及ばないので、ひたすら重機とトラックで作業を進めました。ほぼ整地ができてきたところで 水道、電気、植栽。トイレ、炊事棟の設置とバンガローの補修と新設。看板やプレート、区画の整理をしました。今思い返すと、こんな流れで進めた記憶です。

Q:新たに災害に備えて変更したところはありますか?

テントサイトについては 被災前と同じレイアウトにしかできませんでした。長瀞という場所が自然保護区で、河川地区だったりと規制が厳しく、町や県、国の決りが色々あり、現状に戻すまでしか許可が出ませんでした。自分の土地なのにちょっと納得がいかないのですが。

Q:振り返って、被災する前にこうしておけばよかったと思うことは?

それまでに大雨や台風の経験はあり、出来ることはやってありましたので特にはありません。今回の台風に対しては、あまりにも勢力が大きくどんな対応をしておいても意味はなく無駄だったと思います。

最後に被災して感じたことをお聞かせ下さい。

お客様からの応援メッセージが、こんなにも「力」になるということを改めて感じました。想像もしていなかった沢山の皆様が心配して下さっていたことなど、人と人との繋がりのありがたさに感謝しかありません。

それともう一つ。今まで新緑の季節は普通にやって来るものと思っていましたが、木々にそれぞれに新しい芽吹きがあり、一雨ごとに少しずつ少しずつ葉が大きく濃い緑に変化していく様子を毎日見ながら過ごすこの数ヶ月でした。一晩中川の水中にいた木々。半分以上倒れてしまいながら根がとびだしてしまった木々。傷ついて短く切られた木々。どれもこれも木にもドラマがあるんだなぁと、愛おしく感じるようになりました。

長瀞オートキャンプ場オーナー:伊藤文子氏

ありがとうございました。

【参考情報】
一般財団法人 日本気象協会が「水害・河川氾濫時の避難の心得」を解説しています。
https://tokusuru-bosai.jp/refuge/refuge02.html