オートキャンプと地方創生②〜ABUキャンプフィールド〜

オートキャンプと地方創生②
〜ABUキャンプフィールド〜

2022年3月に山口県阿武町にオープンした『ABUキャンプキャンプフィールド(ACF)』。その事業計画は2018年に始まります。一連の事業はキャンプ場を創るのではなく、ヒト・モノ・カネの地域内経済循環を促進することで、阿武町を『選ばれるまち』にすることを目的とした地方創生事業の一環として行っています。今回は事業推進する上での関係者の理解を得ることと財源確保などについてお伝えさせて頂きます。

地域内循環のイメージ図

【関係者の理解促進】

第一回コラムに書かせて頂いた通り、自然豊かな道の駅に隣接する遊休地をキャンプ場として活用する事に、昨今のキャンプを理解している方であれば異論はないと思います。しかしながら、コロナ前の2018年当時は、現在ほどキャンプのメディア露出も多くない状況です。
高齢化率50%に届きそうな地域住民からすれば、『キャンプ』と言うと黄色の三角テントに飯盒炊爨(はんごうすいさん)、カレーと言う認識で、現在のキャンプスタイルと大きくかけ離れているので、まずは皆さんに昨今のキャンプ状況を知ってもらうことから始めました。
地方自治体等で事業を展開するには、いくつか段階があると考えています。
まず現場担当職員の理解、そして首長など決済者の理解、議員(議会)の理解、住民の理解です。
現場担当職員に『現代のキャンプ』がどのようなものかについては、アウトドア雑誌やアウトドア関連のホームページ、近隣のキャンプ場の視察などで情報提供をしていきました。
また、オートキャンプ協会発行の『オートキャンプ白書』や『オートキャンプ場建設・管理運営マニュアル』も取り寄せて、役場とも共有しました。オートキャンプ白書の統計情報については、自治体での事業構築をする際の単価設定や稼働率などの根拠として必要な情報が詰まっており、大変参考になります。
机上での事業計画を作成する一方、キャンプがどのようなものかを情報だけでなく体験して理解してもらうために、テストキャンプを3回実施計画しています。
初回では、役場関係者へ現代のキャンプの道具やスタイルを知ってもらうとともに、開設予定地での夜間の騒音や必要施設の検証、導線の把握などを目的に実施しています。

初回の役場とのテストキャンプ

それを踏まえ、2回目は忌憚のない第三者視点での意見を聞くために、地域住民と実施。3回目は台風により中止となりましたが、広く公募し、山口県山陽エリアや福岡県からの応募もあり、広域からの集客が証明されました。

2回目となる役場と住民さんとのテストキャンプ

自伐型林業と連携した薪作りのワークショップ、水揚げされる魚の締め方などを変えたり、無角和牛という特産品の付加価値流通を並行して推進し、それらの出口をキャンプフィールドとすることで、双方の魅力を高め合う事を目指しました。更に、キャンプフィールドの開業による関連産業との関係や地域経済への波及効果も同時に調査し、この事業が止まることのデメリットを関係者で再認識し、小さな実証を積み重ねながら、確実な実現に向けて推進してきました。

漁師さん講師のイカさばき体験

【財源確保】

2018年の事業初期段階では、ハード事業費1億円程度でフィールドの水勾配の修正と炊事棟・トイレ棟が一緒になった管理棟程度を想定していました。
当初の事業推進の中で、その予算確保が始めのハードルとなりました。当時、山村活性化支援交付金などの活用を検討していましたが、阿武町は山村振興法対象エリア外であったため利用できませんでした。多くの中山間地域は対象となっていますので、対象の自治体では活用しやすい財源になるかと思います。

阿武町では結果的に、内閣府の地方創生推進交付金を活用して3カ年事業の計画策定を行いました。その中では、事業コーディネートに要する経費、外部専門家やスノーピーク地方創生コンサルティング様、建築設計事務所などへの委託料などソフト事業の財源として充当しました。
また、地方創生拠点整備交付金と過疎対策事業債(過疎債)を造成・施設建築・備品購入などのハード事業の財源として充当しました。
自治体の方はご存知かと思いますが、地方創生推進交付金は事業費の1/2が交付対象、残りの1/2は特別交付税として充当するということで、自治体からの持ち出しがほとんどなく事業が実施できます。
一方、ハード事業の地方創生拠点整備交付金についても事業費の1/2が交付対象ですが、こちらは特別交付税での充当はありません。しかしながら、過疎債対象の自治体であれば残1/2の7割は普通交付税に算入されるので、実質15%を自治体の財源で賄う事で、少ない持ち出しでハード事業も実現可能となっています。

【議会の理解】

キャンプの現状と収支予算計画、事業推進するための財源根拠を明確にすることで、漸く住民の代表である議会に諮られる事になります。議員さん向けにも、阿武町の産業構造や一次産業従事者数、人口ビジョンなどを基にした勉強会を実施し、この町の課題解決に『キャンプ』がうってつけであり、キャンプを軸にした地方創生事業が地域内経済循環を促進し、他自治体のモデルにすらなり得ることを理解して頂きました。また、住民さん向けにも3地域で事業説
明を実施しています。
初年度には、snowpeakおち仁淀川CFや土佐清水CFに町長・役場職員・議員さん達と視察にも行っています。
また、片道4時間はかかる岡山県を主としたスノーピークユーザー15組を招いてのモニタリングキャンプを開設予定地で実施しましたが、その場に担当職員・課長はもちろん、町長や議員さんも参加してもらい、遠距離からでもキャンプに行くこと、スノーピークと連携する事での集客力を感じて頂くことができ、期待が高まりました。コロナや既存施設の移転、開発申請許可など手続き関連での遅れはありましたが、関係者への理解を深めながら事業推進することで、議会・住民等の反対による事業の滞りはほとんどなかったように感じています。
阿武町の職員さん達は日頃から丁寧に住民と接しているので、住民との距離が近く、議員さん含め住民さんの役場への信頼度が高いこともスムーズに事業推進出来た要因と捉えています。

コロナなどで事業計画が当初より遅れたことにより、余裕を持って事業推進する事が出来たと感じている一方、コロナによるアウトドアブームにより、当初想定が5年ほど前倒しになったキャンプユーザーの動きで受け入れスタッフのスキルなどには不安がありました。
次回は、スタッフの確保や研修・育成についてお伝えさせて頂きます。


お読み頂き、ありがとうございます。ご質問・視察依頼等などございましたら、
以下までご連絡ください。解る範囲でご対応させて頂きます。
一般社団法人STAGE 田口壽洋 tag@stage.or.jp

合同会社やもり代表社員、NPO法人自伐型林業推進協会 理事。
1978年生まれ、神奈川県出身。
広告業界、アウトドア業界等を経て、島根県津和野町の自伐型林業集団「津和野ヤモリーズ」や「島根わさびブランド推進協議会」の立ち上げなど、中山間地域での仕事創出のサポートを行政とともに行う。

山口県阿武町では、地域内経済循環を促進する地方創生事業の企画推進などのコーディネートを担い、ABUキャンプフィールドの設立、無角和種のブランディングなど中山間地域での仕事創出に係る各種事業推進に携わっている。