第6回 収益性の分析(2)

第6回 収益性の分析(2)

先月は長期間の降雨、新型コロナウィルスの感染がじわりと地域に拡大し緊迫した状況が続きました。先週は久しぶりの定休日で、思いっきり草刈りなど場内メンテに精を出しました。早いものでコラムも6回目、前半戦最終回となります。今月もどうぞ宜しくお願いします。

経営コラムのアンケートについて

先日、日本オートキャンプ協会より本コラムについてアンケートがあったかと思います。ご回答いただいた皆さま、有難うございました!しっかり何度も拝見させていただきました。ご意見ご要望については出来る限り取上げていきたいと思いますので宜しくお願いします。

また、アンケートの傾向として民営キャンプ場は「経営」を、公設は「運営」の拠り所を欲していると感じました。民営でも市場や財務を知らなくとも経営はできます。公設キャンプ場のKPIには財務指標は含まれませんので知らなくても結構です。ですが、「日本のホスピタリティ産業の生産性は欧米に比べて低い」と云われています。今後はより生産性を求められる時代であり、経営視点で意思決定が出来るようになればきっと皆さんの事業やキャンプ業界に福音を齎すに違いない!と思うところですので、興味がある方は引き続きお付き合いください。

星野リゾートの特別講演は「組織論」

少し話が逸れますが私がキャンプ場で働き始めた2010年、さいたまスーパーアリーナにて新事業創出フォーラムが開催されローソンCEOの新浪氏(現在はサントリーホールディングスの社長)と星野リゾートの星野佳路氏の特別講演があり、後学の為に聞きに行くことにしました。

特に楽しみにしていたのは、既に数々のリゾート再建や旅館再生に着手し23施設もの施設運営に辣腕を振るっていた星野氏が、宿泊ビジネスや観光についてどのような切り口で話をするのか、興味深々でした。

ですが当日、私が聴いた講演内容は、ケン・ブランチャード教授が提唱する組織論をベースにした「星野リゾートの組織論」の基調講演でした。多くの経営者が集まるフォーラムでしたので最大公約数の話題だったかもしれません。期待とは違う内容に多少の残念さはあったのですがそれ以上に、「いかなる事業にも基本があって、そこを避けては事業の成長なし」ということを教えてもらえた気がしました。

当時のメモを見ながら要約すると、

  • 組織は人なり。人の心を動かすのは企業理念(ビジョン)である
  • モチベーションを高めるのは、フラットな組織文化を醸成することである
  • フラットな組織文化とは、経営情報を公開すること(財務諸表やデータも全員が共有)である
  • 共有することで現場に正しい議論が生まれ、社員のエンパワーメントが高まる

ということでした。恐らく星野リゾートの躍進はこのような企業文化によって加速し、現在も進化を続けているのだと思います。また星野氏は、「正しい議論ができない管理職は去ってもらって構わない」とも後述しています。

私たちはキャンプ場という独創的な商売をしているのだけれども、それが個人を超えて組織であった場合、会社は従業員と共に成長していくことが正しい姿だと信じて止みません。そして目標に向かって衆知を結集し正しい議論をしなければならず、そのためには経営を学び知識を得ていかなければならないと強く思っているのです。


貸借対照表の分析をしよう!

前置きが長くなりましたが前回から決算という切り口でキャンプ場の収益性を考えています。前回は決算書の一つ、「損益計算書」からキャンプ場を分析しました。今回は決算書のうちのもう一つ、「貸借対照表」をベースにキャンプ場を分析していきます。

貸借対照表は、キャンプ場が所有する財産や借金のリストとなり、オーナシップな要素が強く理解するには難しいです。ですがそこから導き出す動態比率分析には、ヒト・モノ・カネを把握するのに充分な内容であり、経営分析のダイナミックな部分であると感じています。経営者のみならず多くの意思決定をされる方はその一助になり得ると思いますので、しっかりと理解していきましょう!

【連載スケジュール】

貸借対照表の分析

貸借対照表とは財務諸表のひとつで、会社がどのくらい資産(財産)があり、どのくらい負債(借金)があるのか、また、実際の経営に使える純資産(会社の資金)がどれくらいなのかを知ることができます。

 下の表のように、貸借対照表は大きく3つの要素で構成されています。

左側の全財産に対し、右側にはその財産のもととなったお金の調達方法が示されているので「❶資産=❷負債+❸純資産」となり、左右の合計金額は必ず一致します。そのため「バランスシート」とも呼ばれます。

❶資産…会社の全財産 

流動資産:1年以内に現金にできる実質的な会社の運営資金

固定資産:現金化しにくく、すぐに会社の資金にはならないもの

❷負債…会社の借金(どのような形で会社の運営資金を得ているか)

流動負債:支払い期限が1年以内の借金

固定負債:支払い期限まで1年以上ある借金

❸純資産…資本金や利益剰余金

資産から負債を引いた実質的な財産。返済不要の資金。純資産が多いほど、安定します。

貸借対照表の活用方法

貸借対照表は会社のさまざまな状況が読み取れますが、その分析方法を解説します。また、分析のポイントとしては結果の数字だけではなく、何と何を割って何の数字を拠出しているのか、それによって何がわかるのか、を本当に理解しておくことだと思います。相関関係を理解しておくことで、費用をともなう意思決定の精度が抜群に向上します。また結果の数字が平均値と乖離しているなどの違和感があった場合、その計算式の数値に何らかの異常があるわけです。ですからその異常を修正できれば経営は改善されることになります。

貸借対照表を漫然と眺めているだけでは何の意味もありません。分析が出来ていない場合は、問題点が発見され辛い状況であるといえます。特にキャンプ業界は貸借対照表を誰でも閲覧出来得る状況にはないと思います。ですからオーナーや幹部の方々が理解を深め正しい判断が出来るようになっておきたい分野でもあります。

財務指標は経理ソフトで簡単に拠出できますし会計士からデータをもらうことも出来ます。ですがもし理解を深めたい場合、決算書をエクセルでデータ化し、財務指標の計算式をご自身でいれて分析をしてみることをおすすめします。過去・現在を把握することで将来の展望に繋がることと思います。参考書式は後述します。

自己資本比率

会社経営の安定性を知ることが出来ます。資産のうち、どのくらいの割合を自己資本が占めているかを表したもので、数字が高ければ高いほど、会社の経営が安定していることになります。
なぜなら、自己資本比率が高いということは借金が少ないということであり、会社が他人資本に依存せず成り立っているということだからです。
目安として自己資本比率が40%以上なら、その会社の経営は安定していると言え、30%は確保しておきたいところです。

自己資本比率は、以下の計算式で算出されます。

自己資本比率 (%) =自己資本(純資産)÷資産×100

例えば自己資本が700万円、資産が1,500万円の場合、自己資本比率は46.6%と計算できます。

 また自己資本比率は業種によって差があります。平成30年の中小企業実態基本調査による業種別の黒字企業の平均とケニーズの自己資本比率は以下のようになります。


 通信業は土地建物など高額な固定資産を持たない場合が多く自己資本比率が高いです。逆に宿泊業は、土地建物などの固定資産が高額になるため多額の資金(借金)が必要になり自己資本比率が下がっていると類推されます。またキャンプ場の場合、あまり高額な固定資産は持たず人件費比率等もサービス業に近いのですが、これまで考察してきたように生産性が著しく低い業界といえるので自己資本比率は10~20%程度ではないか、と推測します。

ケニーズの場合、自己資本比率は60%を超え概ね好調といえそうです。その推移は以下のようになります。 2010年頃までは売上が少なく返済も資本の蓄積も出来ていませんでした。2014年ごろから本格的に事業が軌道に乗り返済を進め借入金依存度の減少と同時に自己資本を蓄積していくことができました。自己資本比率の向上は経営の安定性を高め、不測の事態で打撃を受けた時のレジリエンス(回復力・弾力性)も強くなることを意味し今後起こりうる大災害などによる倒産の危機を回避することが出来ます。また高い堅実性は銀行からの融資を受けやすくなります。

ただし、自己資本比率が高すぎることは、借金をして店舗拡大したり新規事業を創出して今後の利益に対して「レバレッジを確保する」ことが出来ていない、つまり経営の安定性と引き合いに、成長および収益の最大化機会を逸しているとも考えられるわけです。
ですのでケニーズはこれまでの自己資本比率の推移を基に最適値を50%程度と定め、融資を受けながら新規事業へトライしていくという方針を打ち出すことにしたわけです。

流動比率

会社の支払い能力を判断する財務指標。流動比率は一年以内に現金化できる流動資産を、一年以内に支払う流動負債で割って算出します。会社の支払い能力が十分かどうか確認することができます。目安は、少なくとも120%必要です。200%を超えると十分な支払い能力があると判断されます。

流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100

また流動比率も業種によって差があります。平成30年の中小企業実態基本調査による業種別の黒字企業の平均とケニーズの流動比率はおおよそ以下のようになります。

土地・建物・機械などの固定費が高額になる業種の流動比率は相対的に低めに計上されます。キャンプ場の場合は、固定費は高額ではありませんが生産性が低い為、そもそもの資産が少なく100%前後かと類推します。
ケニーズの流動比率は約350%と高くなっていますが、これは先述したケニーズのRevPER値が高い為と、その収益を高レジリエンスの流動資産でストックするという方針をしている為です。その他類似する指標に当座比率というものもありますがここでは割愛します。

固定比率

固定比率は、自己資本に対して固定資産がどの程度あるのかという支払能力の安全性を示す指標です。土地や建物などの固定資産は現金化することが難しく、長期間保有することが前提となる資産のことです。固定資産を借金で取得している場合、利息と元金の返済が必要になります。一方、自己資金で取得している場合は、返済の必要がなく安全性が高くなります。

固定比率(%)=固定資産÷自己資本×100

固定費率は100%以下が望ましく、100%は、自己資本と固定資産が同じであるということです。つまり、返済義務のない自己資本で、長期的に回収していく固定資産を運用できていることになります。反対に、100%を超えると安全性に問題があり数値が高ければ高いほど危険です。

業種によって目安になる比率は異なりますので、類似する業種の平均値は以下の通りです

土地・建物などが必要な宿泊・飲食業の固定比率は450%と高く固定資産に依存しているといえるでしょう。これは宿泊業の宿命的なところでもあり、この場合、長期借入金によってその費用を捻出しています。また先に考察した、ホテル旅館の生産性の高さは、「多額の費用を支払った固定資産による付加価値」に起因していると考えることができるでしょう。資産は高額なだけに、老朽化に対するリスク、固定費のリスクはキャンプ場よりも高いのではないかと思います。

そう考えるとキャンプ場は、「固定費はそこまで高くないが、自己資本も少ない」と類推し、業界の固定比率平均値はざっくり150~200%程度でしょうか。
もしあなたの事業が業界の平均値より高い場合、本当にその資産は収益を生み出すのに有効なのか、再考したほうが良いでしょう。場合によっては資産の売却または除却を検討します。できない場合活用方法を検討します。

ケニーズの数年前の固定比率は500%でした。これは固定資産に対して売上・利益額が低く内部留保が出来なかった為です。さらに売上が少ないにも拘わらず老朽化などの改修費用は嵩んでいた為です。改善策として、生産性や費用対効果の高いものにプライオリティをおき投資をすることを徹底しました。また無駄なものは除却しました。事業が軌道に乗った現在のケニーズの固定比率は43%と優秀です。今後は固定比率を50%に収斂するように改修や環境保全に充当していきたいと考えています。
また、そのほか類似の指標には固定長期適合率(固定費を自己資本+長期借入金で割ったもの)というものがありますが、この指標を使うと宿泊・飲食業の数値は96%になります(こちらも100%以下が基準、それでも高いですね)。ちなみにケニーズの固定長期適合率は37%とこちらも優秀です。

このように貸借対照表は、会社は資金的に安定しているのか、お金を出して保有する資産が本当に生産性に寄与しているのかを見極めることができる重要なツールとして活用できるのです。

「損益計算書」×「貸借対照表」クロス分析

さて、ここまでは決算書の「損益計算書」と「貸借対照表」を個別に分析してきましたが、この二つの財務諸表を組合わせ、さらに分析を進めます。動きのある「損益計算書」と財産表の「貸借対照表」の相関関係を分析できることから動態比率分析といわれることもあります。

総資本経常利益率

総資本に対する経常利益の割合を示す指標です。投下した資本を利用してどれだけの利益を生み出したのかを示す儲かりの総合指標です。この数値が高ければ、「少ない資本で多くの利益を上げる」ことが出来ており企業が効率的に資本を運用できているといえます。計算式は、以下になります。

総資本経常利益率(%)=経常利益÷総資本×100

例えば、総資本が20億円で利益が1億円であれば、(1億円÷20億円×100)=総資本経常利益率は5%になります。簡単に言うと、「20億相当の財産で、年間1億円の利益を作れたよ!利益は財産の5%分ね!」ということになります。もちろん10億円の財産で1億円の利益を作れれば、より効率ですよね。その際の総資本経常利益率は10%です。

アメリカの平均値は約6%、日本は約4.7%で、5%以上あれば優良といわれています。業種や会社規模によっても平均値は異なります。コンビニではセブンイレブンが約7%、ファミマが約0.3%です。業種別の平均値はおおよそ以下の通りです。

マイナスの場合は、赤字経営に陥っているということなので、早急に経営改善しなければなりません。キャンプ場の平均値は-1%~1%あたりが妥当な数値かと思います。この数値を見ていくと、僅か1%の利益率が、どれだけシビアなのかを見て取れるかと思います。

 続いてケニーズの推移は以下の通りです。

そもそも中小企業は資本が少なく数値は上振れすることが多いです。それを差し引いても数値は優良です。理由としては固定資産を必要としないビジネスモデルであることに加え固定資産の多くが減価償却が終えていること、伝来の土地を使用しており固定費がかからないこと、遊休資産を保有していないことが挙げられます。また、個別の優位性としては利益確保の粗利戦略や在庫管理、マーケティングなどの販売力強化等の理由が挙げられます。
 数値の変遷をみていくと、11年に経営者交代によって売上利益が向上し、14年に大きな返済と社会保険への加入で利益の減少がありました。16年には増員&待遇強化・新店開発によって利益減少と資本増加があり数値は下がりました。以降はヒト・モノ投資のレバレッジが利き始め、再び数値は伸長を続けます。 

このように資本と利益には強い相関関係がありますので、経営改善をしたい場合、自社の財務を良く分析し、どこをどうしていきたいのか計画されることをおすすめします。

そのほか私が常態的に拠出している動態比率分析には以下の指標があります。その他にも多くの指標がありますが、基本的なポイントに絞ってざっくりと推移を確認してみては如何でしょうか。

  • 売上高対支払利息比率=支払利息-受取利息÷順売上×100【売上に対する他人資本への依存度】
  • 総資本回転率=売上÷総資本【売上に対する資本の効率性】
  • 現金預金回転期間=365÷(純売上÷現金預金)【支払い能力の高さ】
  • 棚卸資産回転期間=365÷(売上÷棚卸資産)【滞留在庫の有無】
  • 売上債権回転期間=365÷(売上÷売上債権)【滞留債権の有無】
  • 固定資産回転期間=365÷(売上÷固定資産)【固定資産が売上に貢献的か?】
  • 流動資産延命期間=流動資産÷固定費×100

また実際当社ではどのように決算データを入力し、財務指標の進捗を管理しているのかは、以下のようになります。財務指標の項にはすべて計算式が入っていますので、決算データを入力するだけで簡単に指標を拠出できるようになっています。さらに数値に違和感があった場合、要因の因果関係も容易に分かる一覧になっていますので、迅速に問題発見と課題立案ができるようになっています。

 今回で決算書(財務諸表)をベースにしたた収益性(財務指標)分析は終了となります。キャンプ場ビジネスは、収益性のデータ収集がされておらず、その実態が把握しずらい業界ともいえます。ですが今回のコラムである程度の外郭は掴めてきたのではないかと思います。今後は業界全体で経営数字を基にした議論が盛んに行われることを期待しています。


 さて、これまではキャンプ場の分析を主軸にすすめてきましたが、7回目以降は待ちにまった実践編です。収益性を改善する為には、どうしたら良いのかを検討していきたいと思います。まずは需要と価格の相関関係を考察し、ベストプライスを探る手法を展開します。その行為をレベニューマネジメントといい、「収益を最大化するため、需要予測をもとに適切な販売管理を行うこと」となります。マネジメントが嵌れば確実に収益は向上しますし、需要を基にする為、値上げによる顧客離れも抑制しつつ単価を向上させることも可能となります。

実は今更なのですが私はあまり数字が好きではなく、レベニューマネジメントはデータの収集と設定が非常に面倒なんですね。マネジメントの原理は知っていても1年半やるかやらないか迷っていました。面倒そうでしたので。ですが知ってるだけではなく、困難なことでも実践していかなければなりません。やれば変わります。どう変わるかも示します。お楽しみに!


執筆者紹介:
川口泰斗(鳥居観光株式会社 統括マネージャー)
埼玉県飯能市にあるケニーズ・ファミリー・ビレッジと古民家ファミリービレッジの両キャンプ場を運営する傍ら、飯能市のキャンプ場連合会の事務局長も務める。