第9回 事業戦略と事業計画

第9回 事業戦略と事業計画

12月の連載はお休みをしてしまい大変すみません。イベントや来年度のプライシングとシーズン設定、補助金の申請、新事業の打合わせなどスケジュールがとにかく詰まっておりました。また自身のキャリアの中でも分水嶺となる12月の「キャンプ場経営セミナー」の講師のお仕事を引き受けさせていただき、全霊を傾けようとコラムをお休みさせていただきました。

今回のコラムでは、まずは先日開催された経営セミナーの内容に触れつつ事象を抽出し、事業計画や戦略策定について考察していきます。それでは早速まいりましょう。

連載スケジュール(予定)

キャンプ場経営セミナーについて

ひと月前の12月、JACの企画する『キャンプ場経営セミナー中級マネジメントマネジメントコース』の講師として、前後編計6時間にわたりお話をさせていただきました。対象者はこれからキャンプ場を開設する方。参加者は経営者や会社役員、事業責任者など実績を積まれている方が多い印象でした。費用は高額にも関わらず6名の方にご参加いただきました。

 皆様の熱量にキャンプ場経営への本気度が伝わり、これから開業されるキャンプ場はきっと沢山のお客様を迎え入れ、市場を盛り上げていくのだろうとおもいました。そのときは良いライバルとしてケニーズも健全なキャンプ場であり続けたいと考えています。準備から当日のコミュニケーションまで個人的にも会社としても非常に勉強になり、講師を引き受けて良かったなぁと心から感じています。この場を借りて関連する皆様に御礼申し上げます!

■セミナーの一幕

以下に参加者アンケートを抜粋して紹介します。

手前味噌ですが、満足度は非常に高く、価格に対し満足度への低下圧力は見られません…!需要曲線とプライシン・満足度の話をしておきながら、自身の講義がご満足いただけないようでしたら講師は失格でしたね。。逆にこの満足度であれば、レベニュー的にもう少し値上げをしても良いかも知れません(^^)

売上・稼働率・客単価(ADR)は、借入や雇用計画にも影響するので特に関心が高かった項目でした。本稿でも繰り返し述べている『RevPER値』のくだりは、キャンプ業界ではこれまで全く語られることが無かった概念でしたので特に興味がある様子でした。また、需要予測とレベニューマネジメント、値付けについては利益に直結する項目でしたのでこちらも関心が高いことがうかがえます。

さらに今回のセミナーでは、全国平均ではなく、なんと『地域別のRevPER値』の参考値を拠出し、『地域実情に合った生産性の基準値』から、参加者の皆さまの営業計画に落とし込めるようにしてみました。関東と北海道の1サイトあたりのRevPER値ギャップはどれだけあるのか、皆さんはご存じでしょうか?

またセミナー参加者の皆様には以下の内容の課題をご提出いただきました。

課題項目】
管理面積・サイト数・雇用人数・来場人数・営業期間売上・仕入高・人件費・経常利益率・営業日稼働率・365日稼働率・展望と問題点

回答からさらに以下の項目を拠出します。

拠出指標】:
一人あたりの客単価・従業員一人当たりの売上高・1サイトあたりの年間売上高・人件費率・1㎡あたりの年間売上高

この指標を、全国のキャンプ場のデータと比較し計画の妥当性を判断していきました。比較することで計画の客観性を高め、実現可能かつ持続可能なものへと磨き上げていきます。

 皆様良い計画をされていると思いましたが、固定資産が売上に対し貢献的かをもう少し考えられたほうが良いと感じました。土地の面積効率のみならず、すべての費用は売上に貢献的でなければなりません。既に自走しているキャンプ場は経営実績を素材に修正が効きますが、これから開設されるキャンプ場に実績はなく予測に頼るしかありません。予測と現実と乖離すればするほどオープン後の経営リスクが高まるので注意が必要です。自己満足や思い込み、期待値は事業継続を困難にし、こんなはずではなかった…みたいなことも考えられますので、できる限り客観的な分析を勧奨したいと思います。
また、少しチクっとしますが全国の既存キャンプ場においても資産・費用の無駄使い・持ち腐れが多くありそうですね。その場合、活かすか除却か財務指標から再考したほうが良いかもしれません。

さらに人件費率に対しては低いほうが良いわけではなく、よい人材を確保するには相応の費用が発生すると考えたほうが良さそうです。なぜなら同じ施設でも人材次第で売上や利益率が数倍にも跳ね上げることが可能だからです。

ご参加の方は人生の、そしてビジネスの先輩方であったのでこのような感想をいただけたことに大変に恐縮しております。感想にもあるように、私の拘りは『現場はホット、経営はクール』であることです。クールな経営とは数値以外の何物でもありません。コロナ過を除きキャンプブーム到来前の10年前から前年比で2桁成長を続ける私どものキャンプ場と多くのキャンプ場の決定的な違いは、たった一つです。

それは「数字」を活用している。見ている・知っているのではなく『活用している』ということがポイントです。ここからは私が実際に活用している事業計画や数値管理について考察をしていきます。計画管理において最も重要な決算書(BS・PL)と財務指標については、当コラムにて既出の為、今回は割愛します。

長期事業構想書

5年先の中長期の計画です。売上・利益・人件費・雇用計画を作成費し、この計画から逆算して課題を作成、実行していきます。

月別年間予算表

単店毎に月別の実績を管理します。昨年対比・予算対比を拠出し、要因分析を行います。
また予算表には重点管理したい人件費の管理項目を入れています。人件費率の目標値を定めてシフトに入れられる月毎の上限値を拠出しシフト作成が容易かつ適正にできるようにしています。

月別損益管理表(試算表)

月別の損益計算書です。毎月分のデータを会計士からいただき、昨年対比が見えるようデータを管理します。著しく比率が変動している場合や高額な経費の動きはチェックし問題があれば改善していきます。直近では月在庫削減や商品改廃、定数管理などの成果を直ぐに検証することができました。月毎のですので問題点を速やかに発見し、かつ迅速なPDCAが可能になることが最大のメリットです。

月別部門別売上稼働実績管理表

単店の部門別の売上と稼働率の実績表です。サイト種別毎の売上・営業日稼働率・365日稼働率・平均単価・RevPER値を拠出しています。さらに全サイト体における稼働率やRevPER値のみならず、日照時間や降水量のデータを管理し、実績とマクロ要因の整合性も管理します。レベニューマネジメントによって弾力性の高い高度な料金体系を実装した際には、この管理表が最も効果測定をするのに適しています。

また、重要顧客に対し、どのカテゴリの数値をどのように変化させてどのようなアプローチをしていくのか戦略を策定していきます。さらに、RevPER値の低いサイトにどのような価値を付与するかも検討し課題にしていきます。

日別売上管理表

一日毎の売上を昨年の同日程の曜日と比較する管理表です。日ごとの売上を昨年比較しどのように推移しているか確認します。さらに日ごとの降水量も管理し、売上と天候の相関関係を履歴しておきます。天候が良いにも関わらず、前年より売上が低い日程が多い場合、何らかのマイナス要因が発生していると想定されますので早急に現状把握や対策が必要です。また実績だけではなくオンハンドの予約金額を入力することによって、予算に対し積極的なアプローチをすることができるようになります。

日別部門別稼働実績表

サイト毎の日別の稼働率の実績を管理します。またサイト毎のキャンセル待ち数も入力し稼働率だけでは見えない需要数を把握、さらに潜在需要係数を掛けることによって真の需要数を推し量ることができるようになります。ここにも降水量を入力し、天気と稼働の相関関係を履歴します。言わずもがな、この管理表によって来年のシーズン料金が決定されます。これができるようになると生産性が一気に向上していきます。

シフト管理表

シフトの作成も、前年降水量や稼働率と比較し必要人員をアテンドしていきます。予算表の項で触れた『人件費率の目標値から』使用できる月人員の予算と延べ人数は既に決定しています。これによって季節変動性の高いキャンプ場において誰でもシフトを作成ができるようになります。また数値管理を取り入れることで求人活動も適切なタイミングで行えるようになります。

数字の『活用』

このように数値を可視化する管理表を使用すれば、事業計画や予算は簡単に作成することが出来ます。さらに経営戦略についても同様に、管理表の数値や財務指標が問題点やヒントを示してくれている訳ですから、簡単に戦略も策定することが可能となります。さらに管理表は、実行した戦略の効果測定も可視化してくれますので修正変更も容易に可能となり経営ツールとして優秀、非常に頼りになる相棒です。

特にキャンプ業界においては情熱のみを武器に「おそらく」、とか根拠のない言動、思いつきや効果測定のできない挙動言説が溢れているように感じます。残念ながら夢や情熱だけでは食べていくことはできません。健全経営の為にもぜひ数値管理を取り入れ実行していきましょう。

また、知っていることと実際に活用することには雲泥の差があります。これまで財務にはじまり沢山の数字のお話をしてきましたが、管理表を作成しその内容を深く理解し実践するならば、あらゆる現象の因果関係が理解できるようになり、売上や利益率が数倍にも跳ね上げることが可能になるでしょう。

私が入社した10年前は、会社に予算表はなく実績や稼働率も誰も知りませんでした。当時の従業員には「もう売上なんてあがらないよ」言われましたが、売上は10倍になりました。指導を受けていた経営コンサルには、「売上5000万で頭打ちだから水平展開を目指しなさい」と言われましたがそこから売上は3倍になりました。社長からは7000万達成した時に「限界だね」といわれましたが、そこから2倍以上伸長しました。このように自社の数字を理解すればするほど、他人の常識がいかに揺蕩うかを知ることができました。限界を突破するには特に難しいことではなく、常に目標を高く持ってチャレンジすることと、数値を可視化することだったのです。

長くなりましたが今回はここまでです。自社の経営を知ることは健康経営の第一歩、ということは理解できたと思いますが、そうはいってもマーケットにはお客様がいてライバルも存在します。そのなかで生き残りをかけて存在感を出すにはいったいどうしたら良いのでしょうか。そのあたりの話を次回、マーケティング(自社分析・ブランディングとプロモーション・差別化)について述べていきたいと思います。自社分析によって市場では圧倒的弱者であると知った私たちがとった差別化・ブランド戦略の一端と、強者のミート戦略について考察していきたいと思います。本年もどうぞ宜しくお願いします。


執筆者紹介:
川口泰斗(鳥居観光株式会社 統括マネージャー)
埼玉県飯能市にあるケニーズ・ファミリー・ビレッジと古民家ファミリービレッジの両キャンプ場を運営する傍ら、飯能市のキャンプ場連合会の事務局長も務める。