第7回 収益性の改善1

第7回 収益性の改善1

キャンプ場の収益を改善しよう!

早いものでコラムも7回目となりました。これまでは主に分析することがメインでしたが、今後は収益を改善する行為について考えていきたいと思います。

まずは需要と価格の相関関係を考察し、ベストプライスを探る手法を展開します。その行為をレベニューマネジメントといい、レベニューマネジメントとは「収益を最大化するため、需要予測をもとに適切な販売管理を行うこと」となります。マネジメントが嵌れば確実に収益は向上しますし、需要を基にする為、値上げによる顧客離れも抑制しつつ単価を向上させることも可能となります。早速見ていきましょう!

【連載スケジュール】


価格の変動について考える

導入のお話しです。皆さんが旅行に行くとき、旅館やホテル、飛行機の価格は一定ではなく変動しているというのは既に経験済みだと思います。ではどのようなタイミングで価格が変わっているのか意識したことはありますでしょうか。

一つは、利用日の価格が予め設定された「シーズン料金制」のことです。ツアー料金が出発日によって違っていたり、ホテルの宿泊料が休前日に高くなるなど、経験済の人も多いですね。

もう一つは、予約日によって料金が変わる「予約日変動料金制」のことです。早めの予約は安く、遅い予約だと料金が高くなることがあります。逆に利用日ギリギリの日程だと格安料金で利用できることもあるでしょう。

それでは、何故このようにホテルや旅館の料金は変動するのでしょうか。理由の一つとして、旅館やホテルなどは需要に併せて供給量を調整できないからです。例えば小売業の場合、需要が高いときには増産し供給量を多くすることが可能です。ですが宿泊業の場合、需要が高いからといって安易に客室を増やすことはできません。もし増室した場合、人気の無い日程はガラガラ、ということでは経営が成り立ちがたく現実的ではありません。

そこで実際はどうしているのかというと、満室を見込めるギリギリ上限値に価格を設定し、収益拡大を図りながら需給バランスを取っているわけです。また早期予約割引などを設定し、オンハンド(既に確定している予約)を増加させることで収益を安定させています。

このように在庫繰り越しができない旅館業は収益改善を最重要項目と認識し、当たり前のように価格を調整し、利益が最大化するよう計画を立てています。聞くところによると宿泊業の9割以上は、「シーズン料金制」「予約日変動料金制」など何らかの価格調整をおこなっております。また、この価格の刺激を使って需要の繁閑の波を一定にする手法は、業界では一般的なものだといわれ、私たち利用者も割と普通(無意識)にそれを受け入れています。

ディズニーランドの価格変動から考える

9月の下旬、ディズニーランドでも値上げが発表されましたが、市場では概ね好意的に受け止められているようです。企業にとって収益の安定化につながるのはもちろん、ゲストにとっても混雑が緩和され、待ち時間の短縮により効率的にアトラクションを利用できるなどの改善につながるからです。日程の調整がしやすい人にとってはお得な時期を選ぶことができるので、分散化に繋がります。これはコロナの時代に良く合っています。

また企業は分散化によって、季節労働者を減らし雇用を安定させることができます。さらに通年雇用が実現すれば、労働者の生産性は上がり、経営のレバレッジとなります。経営が良くなれば好待遇で良い人材を確保することにも繋がり業界のレベルアップに寄与できるのではと考えます。このあたりは2月に人事(雇用・教育評価・賃金)にて後述していきたいと思います。

キャンプ場の価格制度は後進的?

さて、同じく需要に併せてサイト数を増やせないオートキャンプ場の価格は、一体どのような形でお客様に提供されているのでしょうか。まずは「シーズン料金制」についてオートキャンプ白書より抜粋します。

過半数の施設が未だ「固定料金制」です。また、固定制~3段階までのシーズン料金制の構成比は、95%以上となっています。

さらに「予約日変動価格制」について、統計データはありませんが、恐らく99%以上のキャンプ場が「予約日料金固定制」であると類推します。以上のことから、ホテルに比べキャンプ業界は収益の改善に後進的であるといえるでしょう。
ここで経営上2つの疑問点が出てきます。

  1. 繁忙期に安売りをしているのではないか
  2. 閑散期に売り逃しをしているのではないか

ということです。

もしキャンプ場が固定料金制である場合、せめて価格を2段階程度に分けましょう。需要予測をもとに適切な価格設定をすれば、収益を拡大することができます。そしてこのような行為を、レベニューマネジメントといいます。例えば、閉店間側のスーパーで総菜を半値にして売り切る行為も、レベニューマネジメントです。カラオケの部屋代も大きく価格が変動しますが、それもレベニューマネジメントです。

まずキャンプ業界が収益の改善に後進的であった理由を考察してみます。その理由として、誤解を恐れずにいえばキャンプ場は収益を上げる産業ではない(かった)からです。キャンプはロケーション産業であると同時に健康増進という観点から、国民の福利厚生に寄与するものとして今でも公設オートキャンプ場が全体の約7割を占め、利益が第一の目的にはなっていません。

先にも述べましたが、今後は労働人口が減少し税収が低下しますので、公設キャンプ場に投入される公的資金は潤沢であるとは言いきれません。生産性を高められない場合、指定管理を外されてしまったり、事業を整理されしまう可能性もあります。

また過去10年に閉園したキャンプ場の多くは残念ながら私設キャンプ場でしたが、再びキャンプは耳目を集めるレジャーとして大注目されています。今後も異業種参入によってますます競争は激化していきます。当然、参入企業は、例えばコロナ過で打撃を受けた既存事業よりも「キャンプ場経営に勝算あり」と目論見、利益を獲得しに来ていますので、勝負をするには経営力が必要です。想像してみてください。あなたのキャンプ場の隣に、異業種からの企業が高規格キャンプ場を開設するとしたら。

さてここで論じるレベニューマネジメントはアメリカの航空業界から発生したものですが、その源泉は「競争原理」です。民間だから出来得る弾力的な経営力を磨き、今こそ市場に活路を見出していきたいものです。それでは、レベニューマネジメントとは何なのか、キャンプ場ではどのように設計をしていくといいのか、一緒に考えていきましょう。

レベニューマネジメントとは》

レベニューマネジメントとは、需要予測を基に、価格を変動させることで利益の拡大を目指す体系的な手法のことをいいます。

そもそもレベニューマネジメントは、1970年代のアメリカ航空業界の規制緩和をきっかけとして生まれました。当時アメリカの大手航空会社の市場に、格安航空会社が参入しようとしていた際のことでした。大手航空会社は格安航空会社に抵抗し、定価では売れ残ってしまう座席を早期割引運賃で販売した、というのがレベニューマネジメントの始まりです。航空業界で生み出されたこの手法が、「繰り越せない在庫」という共通の特性を持つホテル業界にも広がり既に日本にも定着しています。

レベニューマネジメントの手順は3つです。

  1. 現状を分析しメチャメチャ正確に需要を予測する
  2. 需要に合わせた料金を設定し、売上を予測する
  3. 実際の売上と予想を比較し、改善する

レベニューマネジメントにおいて「如何に正確に需要を予測するか」は重要な要素となります。例えば、需要を高く予測し料金を高くしたのに、実際は需要がなく直前で値下げする…というのは典型的な料金コントロールのミスです。この場合、直前に値下げをしてもサイトが埋まらなかったり、たとえサイトが埋まっても適正料金で販売を続けた場合よりも売上が少なくなったりします。

さらに「早めの予約で損をした」と思わせてしまうと顧客との信頼関係の喪失を引き起こす為、長期的な競争力維持にはマイナスになる可能性があることにも注意したほうが良いでしょう。

逆もまた同じで、需要を低く予測し料金を低く設定してしまうと、予約開始後に直ぐ満サイトになっても、適切な料金で販売を続けた場合よりも売上が少なくなる場合があります。このように正確な予測が出来ない場合、「収益の拡大を目指す」というマネジメントの目的からは大きく離れた結果になってしまいます。

また需要と供給には凡そ反比例になる「需要曲線」という経済学の理論があり、簡単に説明すると「需要はある程度価格で操作できる」というものです。また曲線内の任意の一点を「均衡点」(ベストプライス)とし、保有する知財人材、提供するサービスや付加価値によって施設毎に異なる数値となってくるでしょう。

さらにもう一つ、設定した価格と提供するサービスの内容が大きく乖離している場合、お客様満足度や信頼度を下げてしまう可能性があります。同じ商品でも満足度が高くなるのは低価格で販売した場合です。高価格であれば満足度に対し低下圧力がかかりクレームになる場合すらあるでしょう。安易な価格変更は短期的な稼働を高めることができても、中長期的な集客力を阻害しかねないこともあります。

ですので、レベニューマネジメントの設定は出来るだけデータに基づいた科学的な視点でなければならず、仮説と検証の作業を繰り返すことが最重要であるといえます。一定の成果を収めるには、経営トップ陣が深く関与しながら長期的な取組を進めていくことが必要でしょう。また顧客との信頼関係も同時に実現していかなければなりません。

こうした取組により、経営を科学の目で見ながらそこに直感を加えていく領域でこそ、収益の拡大が期待できるのです。過去の販売データに加え、市場における自社のポジション・優位性などをしっかりと把握したうえでプライシングをしていくこと勧奨します。

シーズンカレンダー制の導入を考える

ケニーズの実例をもとに説明します。ケニーズは過去4回、大幅な料金設定の変更をおこなっております。目標設定と検証をセットで行い顧客との信頼関係を損ねないようリスク回避も同時におこないます。以下にその4つの設定変更の変遷を確認していきます。

① 2シーズン料金制(1994年度~2010年度)

開業当初のケニーズは夏休みのみ1,000円アップの2料金制度でした。私が入社した2010年は、通年稼働率が8.1%。感覚としては「利用料が高すぎる」と感じ、値下げして需要を増加させようと価格を4シーズン制に移行することを決意しました。

② 4シーズン料金制(2011年度~2017年度)

価格変更の第一段階は、下記のように4つの価格帯(バリュー・レギュラー・オン・トップ)を設定し、価格のメリハリをつけることによって稼働を増やす方策で、まず稼働率によってどの価格帯にするかを設定します。ケニーズの場合は稼働が0~20%→バリュー、21~60%→レギュラー、61~80%→オン、81~100%→トップ料金と設定します。

この方策によって、繁忙期を除く殆どの日程が値下げになりました。値下げをし、従来と同じ稼働率であった場合は売上減になり経営を悪化させるので注意が必要です。その為、8%であった稼働率を12%になるよう目標を設定しました。目標に向けてプロモーションに力を入れ始めたのもこの頃でした。さらに来客動機を揃え付加価値を高めていくことも必要でしたので、レンタル品の拡充・釣り堀などの新サービスの開始や新しいログハウスの設置、沢山のイベントを企画した結果、客単価が下がるばかりか寧ろ微増、RevPER値も昨対177%となりました。

導入にあたり、過去の販売データをかき集め、何度も何度も試算を重ね社長決裁をもらったことを今でも覚えています。ケニーズに入社した私が初めて深く経営改善に取り組んだ業務であったので、実績が出た時は一安心したものです。因みに着地売上は昨対190%、稼働率は13.7%に向上しました。

また価格のメリハリだけでなく、稼働の弱い水曜日を定休日にして固定費を削減し、従業員の働き方改善も同時に着手したのもこの初期の段階でした。

次に2014年度のカレンダーをみていきます。この頃になると、全体の稼働率が25%に向上してきた為、必然的に多くの日程に高価格帯を選択できるようになります。リピーターの創出・囲い込みとして会員制度も発足し、割引や優先予約などのサービスを拡充しました。

③ 5シーズン料金制(2018年度~2020年度)

2017年には稼働率は37%となり、予約が入れられないとのクレームをお受けすることも多くなりました。増税のタイミングで利用料金を全体的に見直し、さらにイベントがある特日などを5つ目の価格帯「スーパートップシーズン」を新設しました。価格改定にも拘わらず2018年度の稼働率は45%、2020年度は60%まで上昇します。

生産性の比較をしてみます。
2010年度 RevPER値=平均単価:10,177×稼働率:8.1=824
2020年度 RevPER値=平均単価:13,508×稼働率:59.3=6,746
10年間の生産性の伸びは818%です。
価格を上昇させつつ、顧客との信頼関係をも同時に構築できた場合、このように生産性を上げることが充分に可能となります。

顧客との信頼関係

先日、とあるキャンプ場様から「値上げに対する顧客の反応や考え等の心理学」について教えてほしいとご要望がありました。もちろん値上げに対する顧客の反応とは、先に述べた行動経済学でいうところの需要曲線で説明できるでしょう。値上げをすれば確実に需要は減りますし、心理としては満足度に対し低下圧力がかかります。ですので、値上げを実現したい場合、減る需要に対しそれを受け入れるのか、それとも満足していただけるよう同時に対策をとっていくのかの選択をしなければならないでしょう。

 ケニーズの場合、第一段階の価格変更の際に来てほしい顧客層を定め、どのような方策をとれば付加価値を高めターゲット満足度を高めることが出来るのかを検討していきました。それが達成できるようなら費用は優先的に捻出します。また投資に対してのリターン適正は、当コラムにて繰り返し述べている財務指標から推し量ることが可能です。顧客との信頼関係が築けていない場合、何らかの数値が必ず悪化します。

また、どのような方策をとれば付加価値を高められるのかは、各施設の保有する財産や知的資本によって異なります。また方策を策定する際には財務諸表を始めあらゆるデータ(事実)を集め、出来るだけ正確な現状把握をすることから始めましょう。現状把握が出来ない場合、原因や改善の種が特定できません。特定できない場合、往々にして方策がズレて効率が悪くなります。このように生産性が悪い状態は結局、回りまわってお客様の負担になってしまい、信頼関係を損ねてしまうことは充分に推測できるでしょう。

また数値以外でも、私たちがどれだけお客様の声を聴けているのか、ということも重要です。特に日本のユーザーはサイレント・マジョリティ(物言わぬ多数派)といわれ、直接声をあげることは滅多にありません。ですが最近は口コミ機能など便利なツールもあり私たちは沢山のお客様の声を聴くことが可能となりました。時に辛辣な言葉もありますが、修飾語を取り除いたお客様の声には、真理があります。その声を傾聴し、無視することなく真摯に向き合い、約束を交わし、実行していく。このような行為にこそ、関係構築の鍵があると思っています。また、この「マーケットイン」の発想は単純に費用対効果が高いものとなります。

ですので、口コミには必ず責任者が返信しましょう!お客様と約束もしないで信頼関係がどうとか値上げをしたいとか言っている場合ではない、と個人的には思うところです(^^)お時間があればケニーズへの口コミを確認してみてください。

シーズンカレンダーの先へ

さて今回はここまでとなり、価格変更の③番、「5シーズン料金制」まで説明しました。説明できなかった価格変更の④番では、今年4月から取り組んだ新料金形態です。開始から半期経ち効果測定ができましたので報告を致します。そしてここからはシーズンカレンダーの先の領域に突入します!

次回、ホテルのレベニューマネジメントを参考にした④番目の価格変更、「9価格帯、サイト種別毎シーズン料金制」の導入によって26,280パターンの料金を定めることになってしまった私の苦労談と成果を披露いたします。お楽しみに。


執筆者紹介:
川口泰斗(鳥居観光株式会社 統括マネージャー)
埼玉県飯能市にあるケニーズ・ファミリー・ビレッジと古民家ファミリービレッジの両キャンプ場を運営する傍ら、飯能市のキャンプ場連合会の事務局長も務める。